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2014-10-19

【6th Card】信じてみる【STRUGGLE】

前回の話→【5th Card】復讐者【STRUGGLE】




 おれに、人を守る役割を背負う力はあるのだろうか。
 逃がしてしまったモンスターのせいで、つまりはおれのせいで、関係のない人間が傷ついてしまった。おれではない人間が傷ついた。その時点でおれには最早、人を守る資格なんてないのかもしれない。これが普通の役割ならば、自ら役割を放棄することもできたであろう。ところが、おれの場合だとそれをすることはできない。自分の過ちを背負ったまま、役割を果たしていかなければならない。
 そんな重たい役割を背負い続けることがおれにできるのか。おれに相応しいのか。
 家に帰ると、古代人が見ていた番組で、街にモンスターが襲撃してきたことがニュースとして大きく取り上げられていた。しかし、目撃証言があいまいで、情報としては使えないものばかりだった。警察も動き出している。さすがに亡くなった人も多かったので、当然と言えば当然のことであろう。
 絢十の話によると、あの警察官はなんとか助かったそうだ。それを聞いたうえで学校へ向かったのだが、どうやらモンスターが街へ襲撃してきたことにより、しばらく休校となってしまった。生徒を外に出させるのは危険、という判断なのだろう。欠席扱いにならなかったのがせめてもの救いだった。
「大丈夫でしたか」
「一応な」
「ニュースを見て、私もなにかできることはないのかと思いましたが、場所がどこかわかりませんでした」
 あの場所へ行かなくて正解だっただろう。警察官一人を守るのも大変だった。
「なあ、守護者は何人いるかわかるか?」
「たしか、四人だったかと思います」
「四人か」
 多いか少ないかと人に尋ねられたら、きっと「少ない」と返事が来るだろう。だが、おれにしてみれば二人以上の時点で多い。役割は何人も同じというのはおかしいと思う。特に、その活動場所が近ければ近いほど。
「もしや」
「ああ、一人増えたぞ。しかも女だったよ」
「それは心強いですね」
 苦笑いするしかなかった。
「どうしました? ため息なんて……」
 気づかないうちにため息までついていた。
「別になんでもない」
 古代人に話して解決することでもないだろう。おれはただ、与えられた役割をやっていけばいい。そう自分に言い聞かせた。
「けんいちさん、もしかして悩んでいますか、役割のことを」
「……いや」
 見抜かれている。それでも、おれは素直に認めようとはしなかった。
「けんいちさんは、守護者の役割が自分一人でいいと思っているんですか?」
「そんなことはない。そうじゃなくておれは」
 言いかけて、自分が否定したはずの問いかけを認めてしまったことに気がついた。もう隠し続けるのもばかばかしいので話すことにした。
「おれはただ、自分以外にその役割に相応しい人間がいるのなら、そいつに任せればいいと思うだけだ」
「自分が守護者の役割に相応しくないと思っているんですか?」
「ああ」
「どうしてですか」
「さっき話した新しい守護者、そいつの親しい人間がモンスターに殺されたんだ。おれが、逃がしてしまった例のモンスターによってだ。おれが役割に相応しい人間なら、そんなことはなかったんじゃないかと思えてくるんだよ」
「それは……自分に厳し過ぎではありませんか」
 たしかにそれもあるだろう。しかしおれはいつも、可能性に裏切られてきた。「もしかしたら、自分にできるかもしれない」という言葉を信じて挑んできたものは、おれ以外の人間によって達成されてきたのだ。それを繰り返されていくうちに、いつしか努力を恐れる自分が現れた。その結果がこれだ。
「そうかもね。でも、守護者の役割っていうくらいなんだから、多くの人を守らなくちゃいけないだろ?」
「はい」
「なら厳しくもなる」
「守護者というのは、人間全体を守ることを役割としています。だから……」
 古代人は酷く言いづらそうにしていた。なんとなくその理由を察した自分がいる。
「多少の犠牲は仕方がないことなんだと思います」
 つまりは、いくら犠牲を出そうとも、それより多くの人間を救うことができれば正義ということになる。その考え方はあまり好きではない。
「でも! 私はその考え方に納得できません」
 古代人もおれと同じ思いのようだ。先ほどの発言はこの古代人自身の考えというわけではなく、守護者の役割を創った者の考えを読み取ったもの、ということなのだろう。
「私には、けんいちさんが役割に相応しくないとは思えません。けんいちさんのその姿勢、その心構えなら、大丈夫だと私は信じています」
「これから、また同じ役割を背負う人間が増えたとしても、か?」
「けんいちさんが、その思いを曲げなければ」
 本当にそうなのだろうか。この言葉を信じていいのだろうか。仮に、こいつの言葉が本意からのものだとしても、他者から見れば違うという可能性は大いに有り得る。
 おれはただ、特別になりたかっただけなのだ。
 自分だけの役割があれば、おれは特別になれると思っていた。そして、その役割が自分の居場所を作ってくれると信じていたのだ。
 そのことを古代人に話したら、あいつは困ったような笑顔を浮かべて、こう返してきた。
「欲張りですね」
 おれはなにも言えなかった。
 考えてみれば、彼女には封印の役割がある。それは彼女にしかできない役割だ。しかし自分だけの役割があることは本当に幸せなことなのだろうか。たった一人の役割なんて、自分しかいない寂しい場所しか作れないのではないだろうか。それでもおれは、自分だけの役割を欲したいのだろうか。
 そう己に問いかけてみても、簡単に考えが変わるとも思えない。でも、少しは変えたほうがいいのうではないだろうかと思えた。
「すみません」
「なんでお前が謝るんだ」
「私が言えた身ではないと思いまして」
「お互い様ってことでいいよ」
「はい……」
 こいつは納得していないだろう。だがこれ以上、この話題を続けていいものだろうか。おれには疑問だ。
 おれも少しは前へ歩かなければならない。いつまでも、自分に相応しい役割なのかどうかで悩んでいても、なにも変わりはしない。おれには一歩が必要だ。
 エルーへ向けた言葉、精一杯考えた言葉ではあったが、それを発してみると随分安っぽく聞こえた。
「信じてみる、エルーの言葉を」
 そして、おれ自身の可能性も。
「けんいちさん……いま、名前で呼んでくれましたね」
 無意識に名前を呼んだというわけではなかった。多分、自分のなかで、エルーを認めようという感情が働いたのだろう。エルーのこの言葉に対して、素直に答えてやることはできなかったが。
 人が助けを求めている声が聞こえた。またモンスターが現れた。
「役割、果たしに行ってくる」
「私も、けんいちさんが役割を果たすところをこの目で見届けたい。これからも、私はあなたの戦いをそばで見ていきます」
 おれはその言葉に対してなんと言って返せばいいのか、すぐには頭に浮かんでこなかった。言いたい言葉もいくつかあったことにはあったが、人がモンスターに襲われている以上、なにを言うのか考えている時間はない。半ば無視する形で家を飛び出してしまった。

 機械仕掛けで動く人形を思わせるモンスターだ。黄土色の頭に感情なんて欠片もないような真っ黒な二つの目を持っている。
 そんなモンスターが自身の掌を建物に向けると、少し時間を置いてからその建物は崩れた。その様子を、離れたところからエルーと共に見ていた。
「あのモンスターは手から衝撃波を放ちます。手を自分に向けられたら、すぐに避けてください」
 エルーの説明を聞いて、避けてはいけないのではないかと思うのは気のせいだろうか。そんなわけがない。どう考えても避けてしまえば、そこに被害が出るではないか。
「お前は隠れていろ」
 それだけ言って、モンスターへ奇襲をかける。最初の一撃は見事に命中した。モンスターが地面を転がっていく。
 おれにとって、このモンスターは実に相性の悪い相手だろう。相手に近づいて斬る、おれの戦闘スタイルといえばそれしかない。他にもなにかできることはあるのかもしれないが、おれはそれしかやらない。しかし相手は、敵との距離があろうがなかろうが、自由に攻撃できると思われる衝撃波を放つという。中距離から攻めてくる絢十と戦っているみたいなものだろう。
 モンスターに攻撃の隙を与えてはいけない。おれはモンスターが起き上がる前に再び攻撃を仕掛ける。だが、モンスターは起き上がらずに、地面に向けて衝撃波を放った。その反動で宙に舞う。
 追撃のためにおれは跳躍するが、やつの衝撃波によって追撃を阻まれてしまう。おかげで地面に叩き付けられてしまった。一つ遅れて、モンスターも地上へ降りてくる。
 起き上がると、モンスターがこちらに掌を向けていた。避けるという選択肢はあるが、それでは他への被害が及んでしまう。いまのおれ自身のダメージなら、耐えることも不可能ではない。連続で耐えるのは難しいが、一度だけならできるはずだ。
 衝撃波。刀と全身でそれを受け止める。
 なんとか持ち堪えてはいるが、足が地面を滑っていく。それでも歯を食いしばる。そんなおれに対して、やつは両手から衝撃波を放ってきた。単純計算で二倍の衝撃波。かなり耐えるのが辛い。しかし、これをやめるわけにはいかない。ここで防ぐのをやめてしまえば、また後悔することになる。おれが守護者であるなら、その役割に相応しくありたいと思うのならば、負けられない。
 おれの左手に、黒のカードが握られる。それを使うことにした。
 手からカードが消えると、おれは瞬間的にモンスターへ近づき、そして真一文字に斬り伏せる。いつもこうやってモンスターに攻撃していたのだろう。黒のカードを使って意識が飛ばなかったことなんて初めてだった。
 振り返ってみると、モンスターが立ち崩れていた。そこまで相手にダメージを与えていたわけではない。ということは、黒のカードで与えるダメージがより大きかったということなのだろう。
 もしかすると、おれの意志に応じて、技が強くなったのか。
 そんなことを考えているうちに、モンスターは赤い光に包まれてカードへと変化していた。初めて見る、赤いカードだった。
「けんいちさん」
 エルーが駆け寄ってくる。
「攻撃を避けようとしませんでしたね」
 どうやら気づかれていたようだ。避けられなかったと思われているのではないだろうか、とも考えてはいたのだが。
「やっぱり、けんいちさんなら相応しいと思います」
 そうありたいと思う。少なくとも、一人くらいにはそう思われていたい。
「ありがとう」
 でもやっぱり、自分だけの役割が欲しいという気持ちがなくなったわけではないのだ。こういうのも悪くはないかな、と思うようになっただけ、一歩前進したのかもしれないが。だとしても、おれは欲張りなままだった。





次回→
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2014-09-06

【5th Card】復讐者【STRUGGLE】

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前回の話→
【4th Card】狙われた街【STRUGGLE】


木崎剣一の登校中に街にモンスターが現れた。そこへ駆けつけた剣一が目にした光景は、モンスターによって襲撃された街だった。そこへ金澤絢十も現れ、二人でモンスターを探していたときに……。





 どこからか飛んできた自動車にぶつかったが、なんとか無事でいた。正直なところ痛いことは痛いのだが、我慢できない痛みではなかった。絢十が発砲することで衝撃を殺してくれたおかげかもしれない。いや、そもそもそれ以前に、守護者の力のおかげだと考えたほうが妥当だ。
 自動車を飛ばしてきたのは別のモンスターだった。やはり他にも近くにいたのだ。それが頭にあったはずなのに、敵の攻撃を受けてしまうとはなんとも情けない話だろう。
「木崎、大丈夫か」
 絢十がおれのところへ駆けてくる。
「なんとかな。そっちのモンスターはお前に任せたぞ」
「おう」
 自動車が飛んできた方向はどちらだろうかと思い、周囲を見回してみる。モンスターはすぐに見つかった。大きな一つ目が特徴的だ。加えて、見た目からして明らかにパワータイプなモンスターだ。見た目だけで判断してしまうのはよくないだろうか。
 よし、人を守るためにマナを使おう。おれは絢十の得物、つまりは銃をコピーさせてもらった。刀と銃、これで近距離でも中距離でも戦うことができる。
 モンスターが道にある自動車を棍棒で薙ぎ払いながら近づいてくる。動きは速くない。パワー重視のやつは、動きが遅くなってしまうのがお決まりのようだ。
そんなモンスターに向けて発砲する。攻撃は棍棒で防がれてしまった。その瞬間に、モンスターとの間合いを詰める。敵が攻撃態勢に入る前に、こちらから刀で攻撃。手応えあり。どうやらおれには、瞬間的速さなら負けない素質があるようだ。
だが休む間もなくモンスターが迫ってくる。距離を保つために狙撃するが、それでもやつは攻撃を耐えた。そして自身の武器であるはずの棍棒を投げてきたのだ。回転はないためかなりの重量があると見える。当たったら相当痛いだろう。しかしスピードに関しては決して速くはない。容易に避けることができた。
投げられた棍棒にばかり意識が向かい、モンスターが向かってきていることに気づかなかった。棍棒を持たないやつの動きは速かった。棍棒をかわしたままの体勢で、迫り来るモンスターへの反応が遅くなったおれはまんまと捕らわれてしまった。
 なんて馬鹿力だ。全く抜け出せない。
 
 意外な助太刀だった。おれを捕らえて放そうとしなかったモンスターの気をそらしてくれたのは、先ほどの警察官だった。彼の発砲のおかげでモンスターの意識がそちらに向かい、その隙におれは抜け出すことができた。
 ありがたいことではあるが、守る側が助けられるというのもおかしな話だ。やはりおれはこの役割にふさわしくないのかもしれない。いや、そんなことを言うのはお門違いか。警察官はただ「市民を守る」という役割を果たしただけのことだ。
 そんなことよりも、いまはとにかくこの警察官を逃がすために尽力しなくてはならない。モンスターに彼が狙われている。効果の時間切れのせいかコピーした絢十の銃が消えてしまったが、黒のカードを使うことにした。
 この警察官を守りたい。おれの意志に応じてか、ついにカードが現れた。それをかざす。【瞬速斬】発動。

 気がついたときには一太刀浴びせた後だった。しかし、モンスターはカードへと還元されていなかった。ダメージが充分ではなかったということか。全く攻撃が効いていないわけではない様子だが。
 あと数撃で倒れるはずだ。ならばやるしかない。刀を振り上げる。そのときなにかが近づいてくるのを感じた。刀を振り下ろそうとする手を止める。見ると左側からやってくる女がいた。古代人ではない。そいつは金色の長刀を携えていた。
 この前、絢十を見たときと同じ感覚がする。直感的にわかったのは、この女も守護者の役割を背負っているのだな、ということだ。女はこちらに目掛けて走ってくる。止まる気は全くなさそうだ。
「モンスターはわたしが倒す!」
 彼女の薙刀でモンスターが薙ぎ払われた。こう思ってしまうのは失礼だが、女性なのになかなかなパワーの持ち主だ。守護者の力のおかげでもあるかもしれないが、それでもこのパワータイプなモンスターを地面に叩きつけるとは。
 女は、叫び声と共にモンスターへ攻撃を続ける。これではどちらがモンスターなのかわからない。
 最後の一撃を食らったためか、モンスターはカードへと姿を変えた。カードに近づいて、女はそれを拾い上げた。
「こいつじゃない」
 女は低くつぶやいた。もしかすると、探しているモンスターがいるのかもしれない。
 絢十がやってくる。どうやらモンスターを倒してきたようだ。やはりあのモンスターは絢十が相手をして正解だったというわけだ。
「そっちはどう、だ?」
 言ってから、絢十はなにかを察した。説明は後でもいい気がしたので、おれは言った。
「ひとまずモンスターは彼女が倒してくれた。そんなことよりもあの警察官を安全なところへ連れていこう」
 おれの提案に絢十はうなずいた。しかし、女は明後日の方向を向いている。
「君はどうする?」
「まだこの近くにモンスターがいるはずなの。わたしはそいつを倒すまではここから離れられない」
 この女が一人でモンスターと戦いに行くことに、いささか不安を感じる。先ほどの戦いぶりを見れば任せられる気もするが、こいつは後先考えない戦いをしそうだった。
「ならオレ一人で運ぶから、木崎と、えーと……」
 絢十が言葉に詰まった。その理由を察したのか、女は口を開く。
「瀬戸紫苑」
「……木崎と瀬戸さんはモンスターのほうをよろしく」
 絢十はバイクに警察官を乗せて去っていった。それを見届けることなく、瀬戸は足を動かした。
「おい」
 あとを追った。
 人間を守るためにモンスターを倒すことは役割ではあるが、ここまで積極的に動けるだろうか。ましてや、先ほどのモンスターへの攻撃を見ると、どうも使命感に駆られての行動というふうには見えなかった。怒りによる行動だ。
 瀬戸が足を止めるのを見て、おれも同じく足を止めた。ついにモンスターを見つけたのだ。
 前方に立つモンスターは見覚えのあるやつだった。最初に出会した、オオカミの姿に似ているやつだ。
「あいつはわたしが倒す。君は手を出さないで」
 先ほども似た台詞を聞いた気がする。
「どうしてそこまでこだわる」
「……あのモンスターは、仇。わたしの友だちや、家族、みんなの仇」
 おれがあいつを逃がしてしまったために傷つく人を出してしまった。そういうことなのか。それはつまり、半ばおれが殺してしまったみたいなものだろう。彼女がモンスターへ過剰な攻撃をするのはおれへの恨みでもあるのだ。
 モンスターが迫ってくる。特性がスピードであることは間違いない。おれはすぐさま距離を取る。素早く動くやつと戦うには、こちらがより素早く動くか、あるいはあいつの動きを抑えなければならない。敵の攻撃が速いのなら、一旦、こちらが様子を見るべきだろう。だが瀬戸はそうしなかった。感情のままに、モンスターの突撃へ突っ込んでいってしまったのだ。実に無鉄砲なことだ。
 相手の武器は爪、それに対して瀬戸は長刀。リーチや破壊力では瀬戸のほうが勝っている。しかしながら、スピードでは決定的に負けてしまっているのだ。当然、モンスターは瀬戸の攻撃をかわして、隙を突いてくる。間一髪で攻撃を避けたが、瀬戸が何度も避けられそうには思えなかった。
「お前一人じゃ勝てない。おれもやる」
 黙って見ているわけにはいかなかった。モンスターの、彼女への攻撃を防いでやる。
「邪魔しないで!」
「おれにもやらせてくれ。あいつはおれが逃がしちまったモンスターでもあるんだ」
 そう言った瞬間、瀬戸の目の色が変わったのをおれは見逃さなかった。初めて、人からそんな眼差しを向けられたかもしれない。親の仇を見るような、そんな目だった。
「それならなおさら無理。そんな人の腕なんて信じられるわけない。いいから君はなにもしないで……」
 瀬戸がモンスターに向かっていく。そんなふうに言われてしまっては、なにも言い返せなかった。
 瀬戸は休むことなく、敵に攻撃を当てようとする。しかし、モンスターのスピードには全くついていけず、攻撃は虚しくも空中を斬ることくらいしかできていなかった。彼女の攻撃が当たらないだけならまだいいほうだが、敵の反撃を食らってしまうと、さすがにおれも動かずにはいられない。
 敵の反撃が彼女に、すんでのところで当たりそうになった。おれはそれを捌いてやった。あれこれ文句を言われてしまうのだろうが、目の前で人が傷つくのを黙って見ているよりかは何倍もマシだ。
「なにもしないでって言ったでしょ……」
 ぼろぼろになりながらも彼女は強がってみせた。大した威勢だ。
「なにか策はあるのかよ」
 その問いかけに、すぐには返事ができない様子だった。
 おれとしては、このモンスターを倒すのは誰であっても構わない。しかし倒すのならいましかない。瀬戸がこの調子では、それができるとは言い難いものがある。やつは自分一人の手で倒すことにばかり意識が向かい、敵に勝てるかどうか全く考えていない。
 ではおれならできるのか。
 残念ながら、その問いにも自信を持って「イエス」と答えることは難しい、先ほどのパワータイプのモンスターとの戦闘でマナのほとんどを使ってしまったのだ。青のカードは使えても黒のカードは使えないかもしれない。いま、マナを作ることも考えてはいたが、敵がスピードタイプとなるとそんな余裕はなかった。
 残された選択肢は一つしかない。おれが彼女をサポートし、彼女がトドメを刺す。それがいまできる最善の一手だ。問題は彼女がこの作戦に乗るかどうかだが。
 そんなことは気にしていられないか。不本意ではあるだろうが乗ってもらうしかない。
「おれがあんたをサポートする。だからあんたがトドメを刺してくれ」
「いや。わたし一人の手で……」
「いまここでやつを倒さないとおれの二の舞を演じることになるぞ」
 要するに、彼女と同じ目に遭ってしまう人間を出してしまうということだ。しかも、彼女自身の手によって。それはおれも絶対に避けたい。
「……わかった」
 渋々承知してくれた。
「トドメを刺すときは、あんたの強い意志に応じて出てくる黒いカードを使ってくれ」
「黒い、カード? さっきの青いカードじゃなくて?」
「まあ、青いカードも使ってみるといい。そのときになればわかるよ」
 上手くは説明できない。感覚でわかってくれるだろうと信じている。
 おれはモンスターに刃を向けた。二度目の戦い。速さが上の敵には先手必勝で攻める。瞬発力には自信があった。初速ならばおれのほうが敵より上だ。
 攻撃が見事モンスターに当たる。続く二撃目を食らわせようとしたところで、向こうが本領を発揮してきた。自慢のスピードで距離を取られてしまう。
 ところが、このモンスターの動きは速いが、頭の回転までもそうであるとは言い難いものがある。瀬戸は、モンスターがおれから離れるまさにそのタイミングを狙っていた。
 いつの間にか彼女の手に握られていた、その黒のカードが消えた。得物である長刀が光をまとう。力が刀身一点に集中している。その状態で瀬戸はモンスターに襲いかかる。
 たった一撃だった。それでも、とてつもなく重い一撃に感じられた。それはさながら巨人の一撃、【タイタンハンマー】とでも名づけようか。
 攻撃を食らったモンスターは青白く光り、やがて青のカードとなって消えた。
「わたしが、倒したの?」
 我に返った瀬戸は、やはり自分が倒したことを覚えていなかった。どういうわけかは知らないが、あの黒いカードと使うと意識がなくなるのだ。
「あの青いカードが、あんたが倒したっていう証拠だよ」
 瀬戸は落ちている青のカードを拾い上げた。
「この二枚はどうすればいいの」
「あんたが持っていればいい。戦いはまだ続くんだ」
「やっぱり、役割っていうのは本当なんだ。これで終わり、というわけにはいかないんだね」
 おれはうなずいた。モンスターはまだいる。守護者の役割を背負ってしまったからには、人間を守るために戦わなければならない。しかし、おれにはその資格が本当にあるのだろうか。
「木崎だっけ、君の名前」
「ああ」
 どうしておれの名前を知っているのだろうかと思ったが、そういえば先ほど、絢十がおれの名前を呼んでいた。そのときに覚えられたのだろう。
「忘れないから」
 怒りも憎しみも感じられる一言。それでいて、おれ自身の罪を確認させるものだった。おれはこれを背負って戦わなければならないのだ。




次回→6th Card】信じてみる【STRUGGLE】
2014-07-09

【4th Card】狙われた街【STRUGGLE】

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前回の話→【3rd Card】出口なき迷路【STRUGGLE】




 与えられた役割を果たせる状況ではないなかで、それを果たせないでいるということは、怠けているということになるのだろうか。
 どういうわけか、ここ何日かの間、モンスターの行動は見られなかった。平和なのはありがたいが、いずれやつらが人間を襲うことは確実である。所詮は現状なんて仮初めの平和に過ぎない。おれに真の安らぎが与えられることはなかった。
 同じ数日の間に、古代人は伊部から服を譲り受けていた。古代人の服装で外を歩くには目立ってしまうというのもあるが、女の子ならずっと同じ服を着ているのもどうかという伊部からの提案でもあった。当然のことだが、おれは女物の服を持ってなどいないし、それを選んでやるセンスも持ち合わせていない。それをわかってか、伊部は服を譲ってくれたわけだ。伊部のセンスのおかげか古代人に似合っていないということはなかった。しかしこの古代人、なかなか外へ出ることはない。まあ、モンスターが出れば一緒に行動することになるわけだから、そのときのためにもらったものと思えばいいか。
 朝。古代人は今日も伊部の服を着ていた。
 学校へ行く支度が整ったおれに、現状に対する古代人が自信の解釈を打ち明けてくれた。
「もしかしたら、まだモンスターは復活したばかりで充分に力を発揮できないのかもしれません」
 それを聞いて、一つ気になることが出てきた。
「モンスターの力はどうやって生み出されているんだ?」
「マナです。能力の発動には、大気中のマナよりも生命に宿るマナを必要とします」
「なるほど……。ん? 能力の発動ってことは、おれがカードを使うのにもマナは必要ってことなのか?」
「そうです」
 だから、分身モンスターと戦ったとき、青のカードを使って一瞬力が抜けた気がしたのか。そのマナとやらを使ったせいで、おれに黒のカードが使えなかったのかもしれない。つまり、青だろうが黒だろうがカードを使うのならマナが必要ということだ。それを知らなかったせいで前回の戦いではかなり苦労した。もっと早く教えてくれよ、と言うべきだろうか。
「マナはどうやって、その、溜める、というか、集める、というか……」
 くっ、言葉が思いつかない。
「強く、なにかを念じたり、思ったりすることでマナは作られます」
 作る、なのか。生命に宿っているものなのだから、溜めるというのは違うか。
「けんいちさんの場合だと、『人を守ること』を強く念じればマナが作られると思います」
 いや、そこまでは訊いていない。けれども、知っていて損ではないか。
「ならモンスターは、マナを作るためになにかを念じているかもしれないということなのか」
 想像したらなかなか滑稽に思えた。だが、やつらは生命ではないはずだ。生命ではないやつらにマナは作れるのだろうか。
「おそらく、マナを奪っているんだと思います。人間以外の生物から」
「どうして人間から奪わない?」
 モンスターは人間を襲うことを本能としている。それなのに、人間を襲わないでマナを得ようとするのはどうにも納得ができなかった。
「モンスターのなかには、マナを吸い取る能力を持ったものもいます。ですがマナを奪うというのは、吸い取る能力とは別なものです。モンスターが人間からマナを奪わないのは、人間を襲うときにこそ能力を発揮したいからではないでしょうか。人々が襲われていない現状から、そう考えます」
 彼女の言うとおり、実際のところはよくわからない。ここで議論していても推測の域を出ないのだろう。モンスターの考え方なんて、わかりたくないものだ。
「もしかしたらモンスターが、他にモンスターが封印されてる場所を探してる、とも考えられたりするわけか」
「ええ、その可能性も充分あるでしょう」
「もし封印が解かれたりしたら厄介だな。いまのうちから対策は練られると思うか?」
「難しいと思います。私自身、どこに封印されているのか現在の地形からは判断しかねます」
 封印場所がわかってしまえば、モンスターがそこに現れる可能性から対策は講じ易いが、場所がわからないのであればこちらからはなにもできない。結局のところ、おれたちはなにか起きてからでないと行動できないということか。
「おれは学校へ行く。留守番頼むぞ」
「はい。いってらっしゃい、お気をつけて」
 この生活にも慣れてきたな、とわずかに思ってしまったが、そんなことはなかった。
 通学路を歩いていると後ろから雅志がやってきた。振り返って肉眼で確認したわけではないが、なぜか足音だけで雅志が向かってきているのがわかった。これも守護者の力なのだろう。便利な力だ。
「おはよう、剣一」
「よう」
「守護者の役割は順調かい?」
「そもそもモンスターが現れないんだ」
「なにもニュースがないっていうのは、やっぱりそういうことだったんだね」
「ああ」
「この前話してくれた、金澤くんにもなにもないのかな?」
「多分ないだろう」
 特に連絡を取り合っているわけではないが、あいつから変わった連絡は入っていない。
「じゃあ、エルーさんとはどうなんだい?」
「は?」
 大分素っ頓狂な声が出てしまったものだ。おまけに雅志の顔まで見てしまったではないか。
「いや、異文化との交流はなかなか大変なものだからね」
「ああ……。まあ、そこまででもない」
 あいつは魚料理に戸惑っていたが、それでも苦手とはしなかった。
「仲良くやってるならよかったよ!」
 はいはい。別にそこまで仲が良いというわけではない。しかし、反論する必要もなかったのでこの話はこれで終わりにしよう。
 と思ったが、このままなにもしないで終えてしまうのもつまらない。雅志に一矢を報いてみたい気持ちになった。
「お前こそ、伊部とはどうなんだよ」
 雅志がおれを見てくるので目をそらす。
 普段、雅志とこういった会話はほとんどしない。二人とも色恋沙汰には興味を示さない。
「あはは。剣一、気づいてたの?」
 否定せずに答えてくれるのが、雅志の良いところだと思う。だからおれも素直に返すことにした。
「うん」
「わかりやすかったかな?」
「うん」
「いやあ、こまったこまった」
 困っているふうには全く見えない。
「里花も気づいているのかな……」
「それはわからん」
 わからないのは事実だが、気づいている可能性は充分に有り得る。それくらい、雅志もわかっているはずなのだ。おれがトドメを刺す言葉を言う必要はない。
 なにかを感じ取った。随分と久しぶりな、それでいてまだ二回しか知らないこの感覚は、間違いなく人が助けを求めていることを知らせるものだった。これを感じ取ったのと同時に、パトカーのサイレンが響いてきた。ついにモンスターが現れたのか。
「剣一、もしかして」
「行ってくる」
 おれはすぐさま駆け出した。

 パトカーが向かった方向から場所の予想は大体できていたが、やはり街のほうだった。辿り着いた場所は、もはやおれの知っている街とは思えないほど酷く荒れ果てていた。これが全部、モンスターの仕業だというのか。だとしたら、いや確実にそうだろうが、これはたった一体のモンスターがやったことではないだろう。一体で破壊したとしては、随分範囲が広い。まさかそこまで能力の高いモンスターの仕業ということなのだろうか。いずれにせよ、本日の授業は欠席を覚悟しなければならない。
 感覚を研ぎ澄ましてみる。先ほどまで強く感じられた、助けを求める声が一気に薄れてしまった。嫌な予感が頭のなかを駆け巡る。そのせいで集中できない。
 なにかが近づいてくる気配。おれは振り返る。そこにいたのは、案の定モンスター、ではなくて、傷ついた警察官だった。
「大丈夫ですか」
 おれは警察官に駆け寄った。それと同時に、警察官が倒れる。
「早く……逃げるんだ……」
 途切れそうな声で彼は言った。
「なにが起きたんですか」
「怪物だ……。あいつらが、街を……」
 やはりそうだったのか。
 警察官を追ってきたのか、モンスターが前方からやってきた。真っ黒な全身に、目が真っ赤に光っている。また、手が翼と一体化していた。コウモリを連想させるモンスターだ。
 こんなときに限ってエルーは家にいる。相手がどんな能力を持っているのか、わからないまま挑まなければならない。そのうえ、こいつ一体ではないはずなのだ。他は近くで見ているのだろうか。
 周囲への警戒をしつつ、目の前のモンスターに刃を向ける。すると、モンスターが飛翔してこちらに向かってきた。この警察官だけでもなんとか守り切らなければならない。
 向かってくるモンスターに刀を振る。ところが身を翻して左にかわされた。そのまま距離を取られ、再びこちらに向かってくる。
 ……どうするかな。
 頭に浮かんだ作戦をやるかどうか悩んでいるうちに、モンスターの突進がおれに直撃する。ある意味作戦通りではあるが、なかなか行き当たりばったりだと思う。相手に攻撃してもそれが避けられてしまうのなら、敢えて攻撃を受けてやったうえで相手の動きを封じてしまえばいいのだ。
 守護者の力がどれほどのものかはわからないが、このモンスターの突進に耐えることは可能だった。この間合いならおれの斬撃は避けられない。二三度、おれが攻撃を加えてやると、やつはすぐに離れてしまった。
 このモンスターの能力は「飛行」なのだろうか。断定できたわけではないが、とにかく間合いを取られることは非常に厄介だ。遠距離戦はおれ向きではない。
 光弾がモンスターへ直撃した。タイミングがいいと言うべきなのか、それとももう少し早く来てくれよと言うべきなのかわからないが、その攻撃は金澤絢十の登場を表していた。攻撃が放たれた方向を見れば、やはり絢十がいた。しかも、バイクに跨がっている。
「よう。絢十、バイクに乗ってんのか」
「高校生にもなってバイクの一台や二台に乗れなきゃ損だろ、木崎」
 なにがどう損に繋がるのかはわからないが、戦い易くなったことは事実である。結局、おれはあいつに頼らなければならないのなら、もういっそ開き直ってやろう。
「絢十、おれがサポートするからお前が倒せ」
「当然でしょ」
 絢十の攻撃を敵に気づかせないため、また、負傷した警察官への意識をそらすために、おれは足を動かした。モンスターに近づいてやれば、意識はこちらに向くはずだ。一気に距離を詰める。そのときばかりは周囲への注意を怠っていた。
「木崎、避けろ!」
 絢十が珍しく大きな声を上げた。普段クールな絢十が叫ぶなんて、いままで見たことや聞いたことがあっただろうか。それだけで充分よくないことが起きたのだと悟ったが、おれの足はすぐに止まることはできない。間もなくして視界が真っ黒に染まり、全身に衝撃が伝わった。視界を奪い、さらに衝撃を与えてくるという、敵の特殊能力かと疑う自分がいた。実際のところは違ったわけだが。






次の話→【5th Card】復讐者【STRUGGLE】
2014-06-27

【3rd Card】出口なき迷路【STRUGGLE】

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前回の話→【2nd Card】守護者の役割(後編)【STRUGGLE】


モンスターの存在を察知した剣一は現場へ向かう。そこで襲われかけていた人を助け出すも、モンスターの分身能力によって劣勢を強いられてしまう。新たなる守護者、金澤絢十が現れたことによって窮地の逃れた剣一だったが、守護者の役割が自分だけのものではなかったことに内心動揺する。




 自分だけの役割が欲しい。そう思っていたとき、おれに与えられたのが守護者の役割だった。もちろん最初は信じられなかったし、その重さに迷いを感じてはいたが、心のどこかでは待ち望んでいたことが実現したと思い、嬉しかった。それは否定しない。しかし、おれが求めていた役割というのは、おれにしかできないものだ。他の誰かにできるものなら、別におれがやる必要なんてない。それがおれの考え方。
 絢十も同じ役割を与えられたことを知ったとき、頼もしく思ったのと同時に衝撃のほうが大きかった。もしこれが絢十ではない他の誰かであったならば、まだそこまで気にしなかったのかもしれないが、相手がやつとなれば話は別なのだ。おれはあいつになにかで勝てたためしがない。だからといってこの役割においても絢十に負けるかどうかはわからないが、自信がわいてこないのはたしかである。
 そんなことを考えながら、夜の道を歩いていた。

 数時間前。
 エルーから、絢十はモンスターや古代世界についての一通りの説明を受けた。
「話はわかったか」
「まあ、大体は。ただいきなり役割がどうこう言われても実感わかないけどな。それでもやるしかないだろ。ならやるよ、木崎がやるんなら」
 おれはこの絢十の発言に違和感を覚えずにはいられなかった。中学時代の絢十は果たしていまみたいに熱いことを言う人間だったであろうか、いや、違う。おれが絢十への捉え方を間違っていなければ、絢十は自分が損だと思ったことを徹底的に嫌う人間だったはずなのだ。しかしながら、守護者の役割は明らかに損なものだというのに、あいつは受け入れようとしているではないか。不思議で仕方がない。あいつになにがあったのだろう。
「どうした、高校に入ってなにか変わったのか?」
「ああ、まあな。木崎といた中学の頃が楽しかったなあって最近思うんだよ」
 人は、そう長くない月日で変わるものなのだなと感じた瞬間だった。
「変なの。お前、そういうキャラじゃないだろ」
 おれたちは、つい二年前まで中学生だったのに、おれの知っているあいつは変わっていた。
「高校に行って気づくこともあるんだよ」
 そう言う絢十に、おれは笑って小突いた。以前に比べて、自然な形で接していると感じられた。
「モンスターを倒すの、お互い頑張ろうな」
 別れ際に絢十が言った。こんなふうに言ってくることも、中学ではあまりなかった。
「ああ、頑張ろう」
 絢十とならモンスターを倒せる。根拠のない自信を持てた。
「それと、あの子。しっかりと守れよ」
 余計なことを最後に言ってきた。

 現在。
 だが一人で歩きながら考えていて、どうも自分の考えは甘えにしか思えなくなってきた。絢十がいればモンスターを倒せる、なんてそれはあいつの力を頼っているということだ。つまり自分一人では役割を果たすことができないということではないだろうか。
 とは思うものの、この役割は自分一人だけではとてつもなく辛いものだ。もし絢十がいなければ、おれ一人で、すべての人間を守るためにモンスターへ挑まなければならなかった。
 守護者の役割は自分の役割である。しかし、自分だけの役割ではない。そのことがおれから自信を奪っていく。おれはあいつに勝てたことはない。だからこの役割においても、おれは勝てる気がしない。もちろん勝ち負けの次元の話ではないし、そんなことはやってみなければわからないが、今日の分身モンスターとの戦いで、おれの活躍とあいつの活躍を比較すればわかるだろう。要は気持ちの問題なのだ。
 本当におれはこの役割を全うできるのだろうか。それに見合うだけの器を持っているのだろうか。
 考えても納得のいく答えは見つからないかもしれない。だとしてもどうしても一人で考えたかった。
 周囲を見る。すでに空は暗い。そろそろ家に帰らないと晩飯の支度が間に合わなくなってしまう。今日からは自分一人の飯を作ればいい、というわけにもいかないのだから。
 家からそう遠くないところを歩いていたのですぐに着いた。ドアを開けてなかに入る。
「ただいま」
 普段の我が家とは違って、返ってくる言葉があった。
「おかえりなさい、けんいちさん」
 わざわざ出迎えてくれる古代人。帰ってくる場所があるとはこういうことを指すのだろうか。
「どうかしましたか?」
「……なんでもない」
 真っ先に台所へ向かうことにした。さて、人に食べさせられるもので、おれになにが作れたかな。
「けんいちさん、ご飯の支度ですか?」
「ああ」
「でも右手、怪我されているんじゃ……」
「あ」
 すっかり忘れていた。忘れていたということはそれほど重傷でもないということだろうか。そんな馬鹿な。あれほど痛かったというのに。しかし触ってみると痛みは随分と弱まっていた。
「手伝いますよ」
 さすがに、私が作りますよ、とは言わなかったか。古代の料理をここで作れるのかはわからないが、言われたらどうしようか一瞬悩んだ。
「痛みはもうほとんどない。おれ一人で大丈夫だ」
「そうですか? でも現代の料理の作り方も見ておきたいです」
 興味が出るのは自然なことだろう。ここまで素直に好奇心を出されては、隠してしまうのが罪という気さえしてくる。見せるほどの料理はできないが、現代のものであれば、古代人からしてみればどれも変わりはしないか。
「そこで見てろ」
「はい」
 そばに人がいるというのは、なかなか慣れないものだ。それに加えて、慣れない料理をするのだから動きはさらにぎこちないものになってしまう。勘弁してくれよ。
 この古代人は現代の世界にとっての希望。こいつがいなければ、おれたちがモンスターを倒しても意味はない。
 おれの役割は人間を守ることだが、それをやりつつ、こいつも守らなければならない。どちらか一方を選ばなければならなくなったとき、おれはどちらを選ぶのだろうか。






次の話→【4th Card】狙われた街【STRUGGLE】
2014-06-22

【2nd Card】守護者の役割(後編)【STRUGGLE】

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前回の話→【2nd Card】守護者の役割(前編)【STRUGGLE】

守護者の役割を与えられた木崎剣一は、ついに自分にしかできない役割を与えられたことに内心舞い上がる。また、その役割を全うするために力のない普久原雅志と伊部里花を家に帰す。そして、剣一と古代人エルーはモンスター探しに出るのであった。




 なにか妙な感覚がした。これはこの古代人がモンスターに襲われていることを察知したあの感じと似ている。いま、誰かがモンスターに狙われている。おれにはそれがわかる。わかってしまったからにはじっとしてなどいられなかった。それからのおれの行動は実に早いものだ。まるでどこへ向かえばよいのかわかっているかのように、おれの足は自然と、そして速く動いていた。この速さ、明らかに世界記録を超えている。これらの特別ななにかは、すべて守護者の力のおかげだろうか。だとしたら、凄い。凄すぎる。
 また、エルーの足の速さも驚くべきものだった。守護者の力で肉体強化されたと思われるおれの走りに、なんとかではあるが遅れることなくついてきている。古代人は自動車を使わなかったぶん、健脚なのだろうか。現代人が見習わなければならない。
 辿り着いた場所では、モンスターがまさに人を襲おうとしていた。頭は硬そうな兜のようなもので覆われていて、その奥には黄色く光る目がある。身体は人間のそれに近い。しかし、このモンスターも先ほどの逃がしてしまったやつとは別個体だった。それならそれで、こいつを倒すまでだ。
「あのモンスターは二体に分身します。気をつけてください」
「了解」
 モンスターに横から体当たりして人への危害を防ぐ。間に合った。
「逃げろ」
 とにかく人を逃がす。モンスターがこちらを見てくる。標的はすっかりおれとなってしまった。実に単純でとても助かる。
 よし、ならやりますか。刀よ、来い。
 おれの右手に守護者の刀が握られる。それに応じるかのように、モンスターも武器をその手に掴む。やつの武器は剣だ。刀と剣の戦いか。さっきも同じ戦闘だったな。
 モンスターは剣を振り下ろしてくる。その攻撃をかわし、距離を置いた。
 やつの能力は分身。発動される前にカードへ戻さなければならない。そのためには、黒いカードを使う必要があった。あれは必殺技の発動条件なのだ。しかし、すぐに出てはくれない。発動条件を導く条件をおれはまだ知らなかった。なんということだ。
 考えていたらモンスターがその能力を発動してきた。二体に増えたモンスターは遠慮なんてなしで攻撃してくる。防ぐよりも避けることに意識を置いた。ふと考えが頭に思い浮かんだ。
 もしかすると、黒のカードは使えなくても、倒したモンスターのカードは使えるのではないだろうか。
「おい、さっき還元したカード、あれ貸してくれ!」
 攻撃をかわしながら声を大にして言った。
「で、でも! この状況で手渡すのは難しいのでは……」
「投げていいから!」
 こんな状況で手渡しなんてできるかい。そして漫才なんてもっとできるかい。
「わかりました。えい!」
 彼女が投げたカードをおれは受け取る。青のカード、これを使ってみるか。人を傷つけるためにその力を使うわけではないのだから、モンスターは生まれない……はず。理論的には間違っていない。それでも生まれたなら、生まれたときにまた考えることにしよう。
 このカードの能力は生物以外のものをコピーすること。ならコピーの対象は、おれの刀だ。発動。一瞬、力が抜けたような気がした。一体なんだろう。よくわからないが、青のカードは光に包まれ、刀へと変化する。これで二刀流だ。
「けんいちさん、そのカードで敵の能力を模写することもできるんですよ!」
「はあ? それを先に言ってよ!」
「すみません」
 しかし過ぎてしまったことは仕方がないので、おれは二刀流でどうにか戦うことにする。二体のモンスターからの同時攻撃を、こちらは二本の刀で防いで押し返した。一体はすぐに反撃してくるが、もう一体は様子をうかがっているようだ。一本で敵の反撃を防ぎ、もう一本でこちらが攻撃する。一体は倒れた。しかしその直後にもう一体からの、剣による攻撃でおれの右手を狙われてしまい、コピーではない、本物の刀を落とすこととなる。剣で攻撃されたのにも関わらず、手が切断されなかったことは不幸中の幸いだが、痛みは尋常ではなかった。この様子だとしばらくの間は使えない。
 モンスターから離れてから左手にあるコピーの刀を捨てた。本物の刀が手元に戻ってくることを念じ、再び手に刀が握られる。これはあくまで気持ちの問題だから実際のところはわからないが、コピーした刀よりも本物の刀のほうが強いと思えたのだ。
 だからといって、二体の敵による同時攻撃を左手に持った刀だけで防げるはずもなく、攻撃は見事におれの身体へとヒットした。地面に叩き付けられた衝撃のせいで、前も後ろも関係なく痛みが走る。
 起き上がらないとまずいのは重々承知。しかし痛みのせいで阻まれる。このままでは殺されてしまう。おれには守護者の役割など向いていなかったということなのか。おれにはできないことなのだろうか。それともモンスターが強過ぎただけなのか。だが、古代の人々はやつらを封印することに成功した。くそ、なんて守護者だ。人間を守れずに死ぬなんて。
 おれは立ち上がった。痛みが消えたわけではないが、それでも立ち上がるしかなかった。刀を構えたまま、古代人に尋ねる。
「モンスターはあと何体いる?」
「……二十はいます」
 二十も、か。しかもそれより多い可能性があるときてる。なおさら倒れている場合ではなかった。
 二体同時に攻めてくるからこの状況はよくないのだ。ならば一体ずつ攻めてくる状況を作ればいい。そういえばそんなことを、以前に教わった気がする。誰が教えてくれたのかも覚えている。いまはどうでもいいことだけど。
 おれはひとまず相手に背中を向けた。古代人のいない方向へ逃げる。モンスターは迷うことなく追って来た。目指すは狭い路地だ。そこへ逃げ込めば、敵が二体同時に入ることはできない。地元という特性もあり、すぐにちょうどいい路地を見つけることができた。
 入って振り返ると、やはりやつらは縦一列で追ってきていた。狙い通り。まずは先頭にいるやつに、刀を振り下ろす。いきなりの攻撃でそいつは足を止めるが、その後ろのやつがぶつかってくる。バランスを崩した先頭のモンスターはおれの攻撃を食らってくれた。手応えあり。透かさずもう一体のモンスターに、跳んで攻撃。二体とも倒れた。
 路地から出ると、エルーが来ていた。
「怪我は大丈夫ですか?」
「そんなわけあるか。凄く痛いんだぞ」
 強がるのが男だろうか。そんな決まりがあったとしても、知ったことではないが。
「モンスターの能力を知ってるなら、対抗策とかはないのか?」
「すみません、すぐには出てきませんでした」
 ううむ、悩ましい。次に期待しておこうか。
 モンスターが路地から二体とも出てくる。古代人を下がらせる。もう路地作戦は使えない。早く来い、黒のカード。しかし、それでもカードは現れなかった。
 そのとき、モンスターに光の弾が直撃し、二体とも倒れた。弾が来たのはおれの後ろ側。そちらを見ると、立っていたのは同い年の男。おれに一対多数の戦い方を教えた張本人。
 その名は、金澤絢十。初対面の人間からは「けんと」ではなく、「あやと」と読まれてしまうのがお決まりだった。
 絢十は、容姿端麗、頭脳明晰、中学や高校での定番スポーツならほぼ万能と、まるで人生の勝ち組であるかのような人間だ。やつとは中学よりの、こう言ってはなんだが、親友である。中学を卒業してからはそれぞれが違う進路に行き、最近ではあまり連絡を取っていなかった。あいつはたしか、東高校に通っているはずだ。
 そんなあいつの手には金色の銃が握られている。あいつを見た瞬間から感じてはいたのだがそれを目の当たりにしていっそう現実味を増した。彼もおれと同く、守護者の得物に選ばれた人間なのだ。
 役割は、おれだけのものではなかった。
「木崎、大丈夫か」
 絢十が駆け寄ってくる。おれは右手に目を向けて答えた。
「ちょっと大丈夫じゃない」
「大丈夫そうだな。こいつらはなんなんだよ」
「古代の封印から解放されたモンスター、だとさ」
 さて、彼は突然こんなことを言われて信じるのだろうか。まあ、目の当たりにしているから疑うこともないと思うが。
「とりあえず倒せばいいんだな」
 銃を構えた。まさかもう信じたのか。少しくらい疑わないのか。と思ったが違った。モンスターがこちらに向かってきていたのだ。すぐさま銃で二体を撃つ。すると彼の手に黒のカードが現れた。カードが出た直後は戸惑いを感じているみたいだったが、なにかを察したのだろう。迫ってくるモンスターにそれをかざした。
 銃口から、映画やアニメなどで見られるビーム、あるいは光線が放たれる。雅志に倣って名前をつけたほうがいいだろうか。敵にとっては最後の一発ということで【ラストシューティング】と名づけよう。
モンスターは分身共々それを食らうこととなった。分身は消滅し、モンスターは青く発光し始めた。還元の合図だ。数秒でモンスターは青のカードとなった。
「おい、なにがあった」
 黒のカードを使うと意識が飛ぶのは絢十も同じだった。
「お前がモンスターを倒したんだよ」
「じゃあ、もうこれで一件落着ってこと?」
「まだ別のモンスターがいるから、そいつらをカードに戻すまでおれたちは戦わなくちゃいけない」
「役割っていうのは本当なんだな」
 絢十はカードのところまで歩いていき、それを拾い上げる。絢十も謎の声を聞いたようだ。
「これはどうすればいい?」
 尋ねてられたが、おれには答えられない。仕方がないので古代人へ目を向ける。
「封印は最後にまとめて行います。本来なら私が管理しますが、持っていても構いません。ただくれぐれも悪用しないでくださいね」
「なら絢十が持ってなよ。それ、戦いでも使えるみたいだから」
「おう」
 懐にカードをしまい込む。
「なあ、さっきのカード、おれも持っていていいか?」
 いちいち戦闘中に古代人の手を借りるのはよくないだろう。古代人は、いつの間にか拾ってくれていた青のカードをおれに手渡してくれた。
「で、あの子誰」
 絢十が小声で尋ねてきた。めざといやつだ。
「古代人だよ。モンスター封印の役割を担う」
「へえ、すげえ」
「あの、お取り込み中のところ申し訳ないのですが、私は、けんいちさんのお家に泊まらせてもらうということでよろしいんでしょうか?」
 この女に対して、おれは侮れないやつだという印象を持った。そうかと思えば、ちょっと物足りないところもあり、よくわからないやつというのが現在の正直な感想だ。そしていまのこの発言、絢十にとっては充分すぎる笑い話だ。その質問、いまでなければいけないのか?
 おれは拒否しない、本来ならば。やつには頼れる親戚も、知り合いも、友人も、なにもかもいないのだから、泊めてやるのが世の情けというものだ。しかしこの状況で、しかも金澤絢十の前で、それを言うのは完全に失敗だろう。なぜいまその質問をしたのだ、古代人よ。
「頑張れよ」
 なに言ってやがる、ふざけんな。




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